About パーキンソン病外来について
パーキンソン病は、中枢神経系の疾患で脳内の神経伝達物質であるドパミンの不足により、主に筋肉の制御や運動に関する問題を引き起こします。この病気は、脳内の特定の神経細胞の機能が低下することで起こります。
パーキンソン病は日本を含め世界中で多くの人々が罹患しており、日本におけるパーキンソン病の患者数は20万人以上と推定されています。将来的には高齢化社会の進展に伴い、さらに患者数が増えると予測されています。
残念ながらパーキンソン病の根本的な治療方法はまだありませんが、早期発見による適切な治療でパーキンソン病の進行を遅らせる助けになることは分かっております。治療法の進歩によりパーキンソン病は「天寿を全うできる病気」といえるようにもなっております。
自分自身の健康に気を使い、日常の変化に敏感になることで、より良い生活を送ることができます。何か症状や心配事がある場合は迷わず当院脳神経内科にご相談ください。
また日本ではパーキンソン病は指定難病に登録されており、難病医療費助成制度を受けることができますので不安な方は当院にご相談いただければサポートいたします。
パーキンソン病は身近な
病気です
難病情報センターによると10万人あたり100人~150人(1000人に1人~1.5人)、60歳以上では100人に約1人(10万人に1000人)がパーキンソン病に罹患しているとされています。
試しにこれを松阪市に当てはめてみましょう。2023年現在の松阪市の総人口は約158,000人、このうち60歳以上の人口は約59,000人です。つまり松阪市全体では約158-237人、松阪市の60歳以上では約59人の方がパーキンソン病ということになります。
当法人でも多くのパーキンソン病の方がいらっしゃいますが、数十名です。これには他の市町村からの患者さんも含まれます。松阪市の他の脳神経内科系医療機関に通院されている方もいらっしゃるとは思いますが、松阪市内には潜在的な患者さんはまだまだ多くいらっしゃるものと思います。
早期の発見、治療が大切です
パーキンソン病の主な症状には、次のようなものがあります。
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運動の制御が困難になる
手や足の震え、筋肉のこわばり、動きの遅さなど。
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姿勢の変化
前かがみやバランスの悪さ。
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日常生活の制約
日常動作の困難や身の回りの世話の難しさ。
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表情や声の変化
顔の表情の乏しさや声の低下。
早期発見、早期治療のために実践すること
次のようなことを実践することで早期発見、早期治療につなげることができます。
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1
症状に敏感になりましょう
手や足の震え、筋肉のこわばり、動きの遅さなど、普段とは異なる身体の変化に注意しましょう。 -
2
病状を記録しましょう
日常生活で感じる症状や不快な感覚をメモしておくことで、医師との面談時に役立ちます。 -
3
脳神経内科医師の診断を受けましょう
症状や不安がある場合は、当院神経内科専門医の受診をおすすめします。早期の診断は、適切な治療や管理計画を立てる上で重要です。 -
4
経過観察を継続しましょう
一度診断された場合でも、病気の進行や症状の変化を定期的に医師と共有しましょう。定期的なフォローアップは、適切な治療のために必要です。 -
5
健康的な生活を送りましょう
バランスの取れた食事、適度な運動、十分な休息とストレス管理は、病気の進行を遅らせるのに役立ちます。
当院の強み
- 神経内科専門医による専門的な診療
- パーキンソン療養指導士、PDナースなど各種専門資格者の在籍
- 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士によるリハビリテーション
- 運動、呼吸、発話、嚥下に対応した豊富なリハビリテーション
- 自宅への訪問診療、訪問看護、訪問リハビリの充実
- パーキンソン病などの神経難病に対応できる介護施設(通い、泊り、居住など)の併設
パーキンソン病の症状
パーキンソン病は、以下の3つの主な運動症状と非運動症状が特徴です。もし下記の症状を感じたり、不自然な変化に気づいたりした場合は、神経内科専門医の医師の診断を受けることをおすすめします。早期に気付き、症状や進行を理解すること、適切な治療やリハビリを受けることで、より良い生活を送ることができます。
3大運動症状
運動症状は、パーキンソン病の発症初期からみられる特徴的な症状で、診断において最大の手がかりとなります。特徴的な症状は下記の三大運動症状です。
以前は姿勢反射障害(姿勢のバランスを反射的にとれなくなる)を含め4大運動症状と言われてましたが、病初期には認めないので、三大運動症状となりましたが姿勢反射障害も大事な運動症状です。
振戦
手や指、足、あごや頸部、体全体などが小刻みに震える状態です。日常生活で細かい作業が難しくなることがあります。この「ふるえ」は左右どちらかにより強いのが一般的です。パーキンソン病のふるえは安静にしていてるときに強くふるえ、動作をすると症状が軽くなったり消失するのが特徴です。これを安静時振戦といいます。
- 安静時の振戦
- 患者さんが静止している状態で、特に手や指が揺れ始めます。たとえば、座っているときに手が震えたり、テーブルの上に手を置いていると指が揺れたりすることがあります。
- 手の活動時の軽減
- 振戦は通常、手を使って何かを行おうとすると軽減する傾向があります。例えば、物をつかんだり、手の動きを意図的に制御したりすると振戦が軽減されることがあります。
- 緊張や
ストレス時の増悪 - 振戦は、患者さんが緊張したりストレスを感じたりすると増悪することがあります。たとえば、人前で話をする場面や緊張感のある状況では、振戦がより顕著になることがあります。
- 疲労時の増悪
- 患者さんが長時間の活動や疲れが溜まった状態であると、振戦が増悪することがあります。特に日中の疲労が蓄積されると、振戦が強くなることがあります。
筋強剛
こわばり。手や足、顔の筋肉が固くなり、自由に動かすことが難しくなる状態です。朝起きたときや長時間静止している後に感じやすいです。手足だけではなく頸部や胴体部分にも出現します。
- 静止時の筋硬直
- 患者さんが静止していると、特に四肢の筋肉や背中の筋肉がこわばります。たとえば、立ち止まっているときや座っているときに、腕や脚が固まった感じがあることがあります。
- 姿勢変化時の
固まり - 患者さんが姿勢を変えようとすると、筋肉が硬直して固まってしまうことがあります。たとえば、起き上がろうとするときや歩き始めるときに、脚の筋肉がこわばって動きがスムーズでなくなることがあります。
- 運動の制約
- 筋強剛によって筋肉がこわばるため、患者さんの運動能力が制約されることがあります。たとえば、手の細かい動作や曲げ伸ばしの制御、歩行のスムーズさが影響を受けることがあります。以前に比べて字が下手になり、文字が小さくなる小字症がみられることもあります。
- ストレスや
疲労時の増悪 - 筋強剛は、患者さんが緊張やストレスを感じたり、長時間の活動や疲労が溜まった状態であると増悪することがあります。特に日中の疲労が蓄積されると、筋強剛が強くなることがあります。
運動緩慢
運動の鈍さ。無動。動作が鈍くなり、歩くスピードが遅くなる状態です。歩き始めに躊躇してしまったり、手の動きが鈍くなることがあります。運動緩慢はパーキンソン病診断の必須症状になります。例えば振戦のみが見られる場合はパーキンソン病の診断とはなりません。
- 起床時の動きの鈍
- 患者さんが起床した直後や休息から動き出すときに、身体の動きが遅くなることがあります。たとえば、ベッドから起き上がる際に、体がなかなか動かず時間がかかることがあります。
- 歩行時の
スローペース - 歩行時には歩幅が狭くなり、歩く速度が遅くなることがあります。患者さんは小刻みな歩みを取ることが多く、一歩一歩が遅くなっているように見えます。
- 動作の開始困難さ
- 特に緊張やストレスがある場合、特定の動作を始めることが難しくなります。たとえば、座っている状態から立ち上がる、歩く、物をつかむといった日常の動作において、始めるまでに時間がかかることがあります。
- 動作のぼやけ
- 動作が滑らかではなく、動きのぼやけが生じることがあります。たとえば、手を振る、物を持ち上げる、動作を切り替えるといった際に、手や腕がゆっくりと移動し、ぎこちない動きをすることがあります。咀嚼や嚥下(飲み込み)が遅く下手になるなどの症状が見られたりもします。
非運動症状
先に挙げた運動症状の他にも次のような非運動症状が見られます。非運動症状の中には運動症状よりも早く現れるものもありますので、非運動症状を的確に見だし、運動症状発症前に行う予防的治療を行えることが期待されます。
疼痛、感覚障害
痛みやしびれという感覚の症状が生じることがあります。痛みは腰や下肢に起こりやすく、肩や腕にも痛みが生じる場合があります。一般にパーキンソン病の運動症状の強い側に痛みは出現します。また、嗅覚の変化、においを感じる能力が低下することがあります。食べ物(味覚)や花の香りが薄く感じられることがあります。
睡眠障害
約40-90%の頻度で起こるとされています。入眠困難や夜間の目覚めが多く、眠りの質が悪くなることがあります。不眠、眠気、突発性睡眠。
睡眠調節中枢の障害だけではなく、夜間の運動症状(レストレスレッグス症候群:夕方や夜間に下枝を動かしたくなる病気)、寝返りが打ちにくくなる、痛み、不安、うつや頻尿などの影響があるとされます。パーキンソン病では脳内物質が変動するため、覚醒障害や熟眠障害、夢の異常が起こりやすくなります。昼間の居眠りや夜間の頻回の覚醒もよく見られます。
睡眠の症状としては、夜間の眠れないことだけでなく、悪夢や夢に関連した行動異常、就寝前の異常感覚、睡眠中のいびきなどもあります。特に夢は怖い夢や気持ちの悪い夢を見やすく、夢と関連した行動異常も注目されています。就寝前の異常感覚は下肢静止不能症候群の可能性があり、睡眠中のいびきは睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
自律神経症状
自律神経とは自分が意識しなくても体の状態を保ってくれるための神経です。自律神経系の以上により次のような症状が見られます。
- 流涎
(りゅうぜん:
唾液、よだれを流すこと) - 夜間に見られることが多く、会話中やリラックス時に口からよだれが垂れたりします。これは嚥下機能の低下や口が十分に閉じなくなることで生じます。
- 消化器症状
- 便秘、排便開始困難、胃食道逆流現象、胃不全麻痺、嚥下障害などが現れることが知られています。とくに便秘はパーキンソン病患者の約70-80%でみられ、運動量の低下、水分や食物繊維接種の低下などにより出現します。パーキンソン病の病変が消化管を制御する自律神経に関連しています。身体の動きと同様に、消化器症状も消化管の動きが悪くなることによって引き起こされます。特に便秘は、発症後だけでなく、パーキンソン病を発症する前から存在することが最近の研究でわかっています。
- 循環器症状
- 立ち上がった時の血圧低下(起立性低血圧)が起こることがあります。起立性低血圧が強い場合、頭への血流が減少し、めまいやふらつき、意識消失などが起こることがあります。また、食後に血圧が下がる食後性低血圧も起こることがあります。概日リズムの乱れにより、夜間に血圧が下がらず、むしろ昼間よりも夜間の血圧が高いことや、寝ているときに高血圧が起こる場合もあります。
- 排尿障害
- 夜間頻尿、頻尿、尿意切迫といった「排尿回数が増える訴え」が一般的であり、残尿感や尿失禁といった症状は初期段階ではあまり見られません。特に夜間頻尿の頻度が最も高く、半数以上の患者さんに見られます。
- 発汗障害
- 半数以上の患者さんに発汗障害が見られます。発汗量は増える場合も減る場合もありますが、増加する頻度がやや多いです。発汗障害の特徴は、上半身や顔などが主に多く汗をかくことや、ジスキネジア(自分では止めらない、または止めてもすぐに出現する動き)が重い場合に発汗が増えること、オフ状態で発汗が増えることなどがあります。
表情の乏しさ
表情が少なくなり、笑顔や驚きなどの表情が減ることがあります。これは顔の筋肉の制御障害によって引き起こされます。表情が制限され、感情の表現が困難になります。
- 無表情
(仮面様顔貌) - 患者は表情が乏しく、顔の筋肉が緊張しているために表情が固定されたように見えます。笑顔や驚きなどの表情が表れにくくなります。小声で単調な抑揚のない話し方になります。
- 眉の
上げ下げの困難 - 患者は眉を上げたり下げたりする動作が制御しにくくなります。そのため、驚きや不安などの感情を表現する際に眉の動きが減少します。
- 眼の
開き具合の変化 - 患者はまばたきが少なくなり、眼の開き具合が減少します。これにより、目の輝きや表情の生き生きとした感じが失われることがあります。
- 唇の緊張
- 患者の唇は緊張しており、口角の上げ下げが制御しづらくなります。このため、笑顔や話す際の口角の動きが制限され、表情が乏しくなります。
- 目の
開き具合の減少 - 患者はまぶたの開き具合が減少し、目が半開きの状態になることがあります。これにより、目の輝きや活気が感じられなくなることがあります。
精神症状
運動症状の発現を0年として、0年の前後でどのような症状が出現するかを、横軸を年数、縦軸を症状の強さで示したものです。運動症状が出る20年以上前から非運動症状として便秘が、10年程度前からRBD(レム睡眠行動障害)、数年前から過眠、嗅覚障害、うつなどが現れていることが分かります。
- 気分の落ち込み
(うつ症状) - 気分の落ち込みや憂鬱感を経験することがあります。日常的な活動に対する関心や喜びが減少し、倦怠感や無気力感が出現します。
- 不安
- 不安感や過度の心配を抱くことがあります。不安は病状の進行や将来への不安、運動機能の低下などによって引き起こされることがあります。
- 厳格(執着)
- 物事に対して厳格な姿勢を持つことがあります。ルーティンの変更や柔軟性の欠如がみられ、細かい約束や規則を厳密に守ろうとします。
- 妄想
- 現実との乖離した信念や思い込みを持つことがあります。例えば、他人の陰謀を疑う、被害妄想を抱くなどの妄想が現れることがあります。
- 認知機能障害
- 認知機能にも影響を与えることがあります。注意力や集中力の低下、記憶力の減退、情報処理の遅れなどを経験することがあります。
パーキンソン病の検査と診断
パーキンソン病の診断では、症状の経過や特徴を問診し、特徴的な徴候を確認することが重要となります。特に注目されるのは、動作が遅くなったり少なくなったりすること、手足のふるえ、関節を動かすとカクカクとした抵抗感を感じることです。これらの症状は全て現れる方もいれば、一部のみの方もいらっしゃいます。また、便秘やにおいの感じ方の変化、現実と夢の区別がつきにくくなるなどの症状もあります。これらの情報は診断の参考となります。多くの場合、パーキンソン病の症状は50~60歳以降にゆっくりと現れます。急に現れる場合は、他の病気が疑われます。運動の症状は、体の片側から始まり、両側に広がっても左右で差があることがよくあります。
また、他の疾患でないことを確認するために画像診断、血液検査、尿検査を行うこともあります。
病歴や症状の聴取: 病歴や常用薬を詳しく聞きます。家族歴も参考にします。症状の始まりや進行の速さ、症状がどのように日常生活に影響しているかなどを確認します。
神経学的検査: 脳、脊髄、および神経の機能を調べるために行われる特徴的な検査です。運動機能、感覚機能、歩行能力、意識精神などを調べ、中枢神経や末梢神経などの神経の動きを検査します。
主な検査
- 身体診察
- 体の動きや筋力、バランス、反射などに注目します。例えば、手の震え、筋肉のこわばり、歩行の変化などをチェックします。
- 運動テスト
- 指や手首、足首などの運動を評価します。例えば、指のボタンを押す、手首を曲げ伸ばしする、足首を回転させるなどの動作を求めることがあります。
- 協調性の
テスト - 特定の動作を行うように指導します。例えば、片手で鼻に触れる、両手を前後に振る、指を順番に動かすなどのテストがあります。
- 歩行テスト
- 歩行を観察します。歩行の変化やバランスの問題を評価するために、直線歩行やヒール-トウ歩行(かかとをつけながら歩く)などを行うことがあります。
- 反射テスト
- 反射のチェックを行います。例えば、膝の上にハンマーで軽く叩くことで膝蓋反射を評価するなどがあります。
- 治療的診断
(ドパミン作動性薬テスト) - L-ドパやドパミンアゴニストとよばれるパーキンソン病の薬を投与し効果を確認します。薬を服用することでパーキンソン病の症状が一時的に改善するかどうかを診断の参考とします。
- 画像検査
- MRIやCTなどの脳画像検査、SPECT(単一光子放射断層撮影)によるMIBG心筋シンチグラフィ、ドパミントランスポーターシンチグラフィ(DaT Scan)などの画像検査が行われることもあります。脳の異常や病変の有無を確認したり、脳腫瘍や多発性脳梗塞、多系統萎縮症、水頭症などパーキンソン病に似た症状の病気ではないかを確認することができます。
- MIBG心筋
シンチグラフィ - MIBG心筋シンチグラフィは、パーキンソン病やレビー小体型認知症などのレビー小体病の診断に有用な検査です。この検査では、MIBGという物質を静脈注射し、心臓の画像を撮影します。
レビー小体病では、心臓へのMIBGの取り込みが低下することが知られています。一方、認知症を呈する他の神経変性疾患、例えば多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、アルツハイマー病などでは、通常このような集積低下は認められません。
したがって、MIBG心筋シンチグラフィは、レビー小体病とその他の神経変性疾患との鑑別診断に役立ちます。 - ドパミントランスポーター
シンチグラフィ - ドパミントランスポーターシンチグラフィは、パーキンソン病および関連する神経変性疾患において障害される黒質線条体ドーパミン神経の終末部の状態を画像化する検査です。この検査では、FP-CIT(商品名:ダットスキャン)という医薬品を静脈内に投与し、一定時間後に頭部の撮影を行います。
パーキンソン病およびその関連疾患では、黒質線条体ドーパミン神経終末の減少するのが特徴です。一方、本態性振戦や薬剤性パーキンソニズム、アルツハイマー病などでは、数値の低下は認められません。
このように、ドパミントランスポーターシンチグラフィは、パーキンソン病関連疾患と他の疾患との鑑別診断に有用です。 - MRI
- パーキンソン病の方の頭部MRI画像は、多くの場合正常な所見を示します。つまり、MRI画像のみでパーキンソン病の診断を確定することはできません。
しかし、MRIは他のパーキンソン症候群(パーキンソン病に類似した症状を呈する疾患群)を除外するために重要な役割を果たします。
臨床症状や他の検査結果と組み合わせて総合的に判断することで、適切な診断と治療方針の決定が可能となります。
パーキンソン病の治療
冒頭でも記しましたが、残念ながらパーキンソン病の根本的な治療法はまだ存在しておりません。ただ、パーキンソン病は死に直結する病気ではありません。生活動作が少しずつ不便になる病気という側面が強いのです。そして今や治療法の進歩により、病気の進行を抑制することができるようになってきています。当院では薬物療法と運動療法をメインに治療を進めていきます。
パーキンソン病の薬物療法
パーキンソン病の進行を完全に抑制する治療薬や神経保護作用のある治療薬は現在存在しません。しかし、早期に適切な治療を受けることで症状を抑えることができ、自立した社会生活を送ることができる患者さんが多くいます。また、ドパミン製剤を使用して身体症状を改善することで、パーキンソン病の長期的な予後を改善し、平均寿命も延長しています。
使用されるお薬は次のような薬が代表例となります。(※医師の指示に従い処方を受けてください)
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レボドパ(L-ドパ)
脳内でドパミンに変換され脳内で不足するドパミンの補充を行います。
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ドパミンアゴニスト
ドパミン受容体を刺激しドパミンの効果を引き出します。
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抗コリン剤
ドパミン抑制作用を阻害します。
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アマンダジン塩酸塩
ドパミン放出を促進します。
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MAO-B阻害剤
ドパミンを代謝するMAO-Bを抑制します。
パーキンソン病の
リハビリテーション
パーキンソン病の症状を軽減、進行を抑制するために、リハビリテーションが役立つことがわかっています。
パーキンソン病では、意識して身体を大きく使わないと普段の動作が小さくなる傾向があります。そのため、運動のリハビリテーションでは、筋力を増強するだけでなく、自分の能力を最大限引き出すトレーニングも重要です。リハビリテーションには、体力維持や柔軟性の維持、筋力維持、動作練習、呼吸練習などの目的があります。これらをバランスよく取り入れることが必要です。
当院では理学療法士、作業療法士、言語聴覚士によるリハビリテーションメニューを充実させており、患者さんに合ったリハビリテーションを実施しています。また、訪問によるリハビリも実施しておりますので外出が難しい方でもリハビリのご提供ができます。
パーキンソン病の進行
パーキンソン病を早期発見することで、今後の療養生活の役に立ちます。病気の経過を知ることで、早期に症状に気づけたり、先回りをした対策を立てることができます。これは支援を行う家族にも役立ちますし、前向きな気持ちで過ごすためには重要なことです。
医療ではパーキンソン病の進行度の評価のためにHoehn Yahr Scale(ホーエン・ヤール評価)を使用します。身体機能や日常生活への影響を観察して、病状の進行度を分類します。Hohen Yahr Scaleでは、パーキンソン病の症状がどれくらい進行しているかを5つのステージ(段階)で評価し、進行度にあった介入方法、投薬やリハビリの参考とします。
ステージごとの症状と介入方法
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ステージ01
病気の初期段階であり、通常は片側の手や手足に軽度の震えが見られます。日常生活にはほとんど支障がありません。
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ステージ02
病気が進行し、両側の手や手足に震えが出現し、筆記や動作の制御が難しくなることがあります。しかし、まだ自立した生活が可能です。
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ステージ03
症状が中程度に進行し、日常生活において日常的な活動に制限が生じることがあります。歩行やバランスの問題、体の動きの遅さが現れることがあります。
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ステージ04
病気が進行し、日常生活においての独立性が大幅に制限されます。歩行の困難や自己の身の回りの世話が難しくなります。
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ステージ05
症状が最も重篤であり、患者はほとんど動けず、車椅子やベッドでの介助が必要です。コミュニケーションも困難になります。
前向きになることが一番大事
パーキンソン病は患者さんにとっては大きな挑戦になりますが、前向きに向き合うことでネガティブな感情に立ち向かい、より充実した生活を送ることができます。患者さんが前向きになれるよう当院では次の点を大切にしています。
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コミュニティを作ります
当院や併設介護施設には多くのパーキンソン患者さんがいらっしゃいます。同じ悩みを抱える人々とのコミュニティは、理解と共感を提供してくれます。パーキンソン病のコミュニティに参加し、他の患者さんや家族と交流することで、互いの経験や知識を共有できます。同じ道を歩んでいる人々とのつながりは、心の支えになるでしょう。
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モチベーションを維持します
モチベーションは、パーキンソン病との闘いにおいて重要な要素です。患者さん自身の挑戦する目標を立て、進歩を追い求めましょう。リハビリや運動の習慣を継続し、小さな成功を積み重ねることで、自信と喜びを感じることができるでしょう。
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充実したリハビリを提供します
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのセラピストによるリハビリテーションは、症状の軽減や生活の質の向上に役立ちます。リハビリプログラムに参加し、専門家の指導のもとで適切なエクササイズやサポートを受けてください。リハビリの効果を予測し、積極的に取り組むことで、自身のQOL向上につながります。
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専門家からのサポートを
惜しみませんパーキンソン病の管理には専門家のアドバイスとサポートが欠かせません。神経内科専門医、パーキンソン病療養指導士、PDナースなどの専門家のアドバイスとサポートを受け、適切な治療計画を立てていきましょう。